日本のWebは「残念」 梅田望夫さんに聞く(2009/6)

・英語圏のネット空間と日本語圏のネット空間がずいぶん違う物になっちゃった
・将棋に魅せられるというのも、ものすごく優れた人たちが徹底的に切磋琢磨するプロフェッショナルな世界に惹かれるから。
 そういうところでやってる人がものすごく努力して至高の世界に行く。そういう中で最高峰の世界をみせてくれるじゃない。そういうのに惹かれるから。

・英語圏ネット空間は地に着いてそういうところがありますからね。英語圏の空間というのは、学術論文が全部あるというところも含めて、知に関する最高峰の人たちが知をオープン化しているという現実もあるし。
途上国援助みたいな文脈で教育コンテンツの充実みたいなのも圧倒的だし。頑張ってプロになって生計を立てるための、学習の高速道路みたいなのもあれば、登竜門を用意する会社もあったり。そういうことが次々起きているわけです。

・英語圏ではSNSの使われ方も全然違うし。もっと人生にとって必要なインフラみたいなものになっている

・日本ではなってない。(職を探すとか……。人生のインフラ、学習、生計を立てる、キャリアを構築する)

・上に上がるため、自分を高めていくため、という流れがあるかというと、部分的にはあるかもしれないけれど、比較論で言えば英語圏と日本語圏とずいぶん違うと思いますけどね。

・英語圏のそういったあり方が方が好き、という、好き嫌いの問題だということでしょうか。どっちが優劣、といった意識はあるんでしょうか。
 好きだというのはあるよ。人間だからね。ただ、客観的に見て違うよね。ここはどうだろう。そこについて「事実認識が間違っている」という論は立たないんじゃないかな。

・日本語圏のネット空間において、ユーザーが100万人とかいるはてなの取締役なので、日本語圏のネット空間について、何かネガティブなことを語るということは
 「おまえは自分の利用者を批判するのか」というコメントが出る。
・僕自身がはてなの取締役でいる限り、「(ネットユーザーに対して)お前たち、こうしろよ」とか「こういうこと言ってるやつはよくない」と言うことは許されないんだなと思ったんです。

・今の日本のネット空間では、そういう人(クラスに一人二人いるできる人)が出てくるインセンティブがあまりないわけさ、多くの場合。
「アルファブロガー」的なものも、最初のうちにぽーんと飛び出した人からそんなに変わってないじゃないですか。
それが100倍、1000倍になり、すごく厚みをもって、という進展の仕方と違う訳じゃない。
 
・――ニコニコ動画では、ユーザーが作った音楽に、別のユーザーが動画を付けるなど、ユーザー同士の協力によって新しいものができています。
 サブカルチャー強いよね、日本は。それも全然否定してないよ、日本のサブカルチャー。日本発グローバルでさ。ただ僕自身がサブカルチャーはそんなに……。
 僕は漫画読まないしアニメみないしさあ。志向性がちがうだけで。

・素晴らしい能力の増幅器たるネットが、サブカルチャー領域以外ではほとんど使わない、“上の人”が隠れて表に出てこない、という日本の現実に対して残念だという思いはあります。
 そういうところは英語圏との違いがものすごく大きく、僕の目にはそこがクローズアップされて見えてしまうんです。

・――インターネットの可能性は上から下まで開かれているところにあると思います。
   最新刊「シリコンバレーから将棋を観る」の前書きにも、将棋を愛する人物の例として、医者や会社社長など肩書きのある“ハイソ”な人ばかり出てきて
   「頭のいい人はすばらしい、頭のいい人は分かっているよね」とおっしゃっている印象を持ちます。
 そういう言われ方をすれば、もうみんなそう思っていると思うけど、僕はそういう人間だよ。ハイブロウなものが好きですよ。それはしょうがないじゃない。
 それは否定しないよ。僕はそういう人間だからね。でもね、本当はできる人が「できない」と言う文化は嫌いですね。本当はできる人が「自分はダメである」といってみんなと仲良くせざるを得ない日本の社会というのは嫌いですよ。
 高校生でも中学生でも、勉強ができる子が「できる」と言わない。頭のいい子は隠れる。「ウェブ時代 5つの定理」(文藝春秋)の時も、「これは“上の子”に向けて書いた本だ」と、はっきり言ったんだけど。

・逆に言えば、京大の山中先生(京都大学再生医科学研究所の山中伸弥教授)のような人が学問をやり尽くしてノーベル賞を取ろうとしているとか、
 日本画家の千住(博)さんが歴史に残る仕事をしているとか、羽生さんがこういうことをしているとか、そういうのが好きですよ。そういうのが好きだということが言える社会であってほしいと思うよね。

・僕は彼とそんな話もしますよ。でも彼は「本当かな」と言うんだよ。すべてを疑うということだよね、彼のアプローチって。

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