恵海著「メディア王マードック氏の戦略」大機小機、日本経済新聞、2013 年4 月20 日朝刊を読む
メディア王マードック氏の戦略


・トーマス・フリードマン氏が著書「The World Is Flat」で、
グローバリゼーションにより地球規模で所得・情報が平準化し社会が安定すると論じ、世界のベストセラーとなった。
8 年たってみると国家、民族、宗教などの対立が激化し、経済・所得格差が拡大している。現状をどう見るかと質問した。

・マードック氏は、「グローバリゼーションの進展が、国家間、国内の階層間格差をこれほど拡大するとは想像外であった。現在は多様化というよりも、民族、宗教、社会階層などの対立が深まり、バラバラで不安定な社会」との感想を述べた。

(1)金融危機以降の米国の格差拡大に関しては、「所得上位2 %が富の70 %を所有している。
(2)高所得層は子供の教育に巨額の投資を行い、高所得・高学力を再生産している。
しかし、中低所得層は公教育の劣化もあって貧困と低学力の再生産に陥り、大問題だ」と指摘する。

・格差拡大とメディアの責任について、「教育や所得格差の拡大は、興味や要求の異なる多くの人々を生み出す。メディア産業はどのような戦略で応えるのか」と尋ねた。マードック氏は、「高所得・高学力層は、WSJ の社説よりも高度な分析や解説を要求している。一方、中低所得層は極端に刺激が強い娯楽や激しいスポーツを求めている。こうした要求にも応えるが、子供・若年層の教育番組の充実を図り、低所得・低学力の悪循環を断ち切ることもメディアの責任の一つだ。またニュースを瞬時に伝えるためにデジタル化も重要戦略だ」と語った。

・敵対的買収を繰り返し、多くの敵を作り、今日のメディア帝国築いたマードック氏の82 歳の心境が教育の充実とは違和感もあろう。しかし語り口は深刻、風貌は真剣そのものだった。

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