スマホ中毒を阻止せよ! 元グーグル幹部の孤独な闘いがはじまった│前編

・スマートフォン上で眺めるウェブサイトもサービスやアプリも、すべては人を「中毒」にさせるためのデザイン
 幸福のためにデザインされているわけではない。
・スマホ中毒を、意志の弱さなど個人的な欠点のせいでなくソフトウェアそのものが原因
・自分のスマホをチェックしたいという欲望が生じるのは、もともとアプリやウェブサイトが、
 可能なかぎり頻繁にスクロールされるよう設計されている以上、自然な反応である。
・注目を集める企業に利益がもたらされる「アテンション・エコノミー」により、ハリスのいう「脳幹の底部までのレース」が始まった。
・「人は『これは私の自己責任です』と言って、デジタル機器を使うときに自制心を発揮しようとするかもしれません。
 しかし、そのスマホのスクリーンの向こう側では、何千もの人々が、その『自己責任』を機能停止にしようと働きかけつづけているのです」
・つまり、ユーザーをコントロールするために、技術はどんどん狡猾に進化している。
 そのため、もはや人々は、技術と自分との関係をコントロールできなくなっているのである。
・パースエイシブ・テクノロジー・ラボに入る
 実験心理学者のB・J・フォッグにより運営されているこの研究所は、
 フォッグの「ビヘイビア・デザイン(行動設計)」という原理を習得したいという起業家たちから、カルト的な信奉を集めていた。
 ビヘイビア・デザインとは、ユーザーを、企業が植え付けたい習慣に導くソフトウェアを作り出すことを意味する。
 インスタグラムの共同創立者の1人も、ここの卒業生だ。
・フォッグの授業で、ハリスは行動変化の心理学を学んだ。
 犬のクリッカー・トレーニングのような条件付けの方法が、製品にも応用できることを学んだのだ。
 たとえば、写真を投稿するとすぐに来る「いいね」によって気をよくした人は、それまで気まぐれにすぎなかった投稿を日課にしてしまうことがある。
・ハリスは、成功したサイトやアプリというものは、人間の根源的欲求をうまく利用して、ユーザーを虜にしていることを知った。
 LinkedInは、アイコンによって、各ユーザのネットワークの大きさを視覚的にわかるようにしていた。
 これは人が生来もっている社会的承認欲求をかき立てるので、ユーザは先を争ってLinkedInでつながろうとしたのだ。
・フォッグは私にこう言った。
 「LinkedInで何か有用なことができるわけではないときにさえ、そのシンプルなアイコンの効果は絶大でした。自分が敗者だとみなされたくない、
 という人間の欲望をうまく利用していたのです」
・ハリスはこう感じはじめていた。テクノロジーというものは、多くの技術者が主張するような中立的なツールではない。
 むしろ、我々を一定のやりかたで行動するよう誘導できるものだ、と。
 だがフォッグの授業では、10回の講義でわずか1回しか、こうした倫理面の問題について論じられない。
 ハリスはこのことに困惑したが、フォッグは、この話題はカリキュラムを「すり抜けてしまった」のだと言う。
・ハリスは修士課程を中退し、「ニューヨーク・タイムズ」のウェブサイトをはじめとする何千ものサイトに、
 注釈や解説の入ったポップアップを導入する新規事業を立ち上げた。
・ハリスの会社の使命は、情報に簡単にアクセスできるようにすることで、ユーザーの好奇心を刺激することだった。
 だが新聞社からすれば、自社のサイトにより多くの時間を費やすようユーザを囲い込みたい。この2つの圧力のあいだで、ハリスは分裂を感じはじめていた。
・ハリスは、ユーザーを囲い込む戦略において、ビヘイビア・デザインが有効であることを痛感するようになった。
 彼はそれらを「乗っ取りのテクニック」とみなしていた。
 砂糖、塩、脂肪をジャンクフードにたっぷり入れれば、食べた者はハマってしまう。このデジタル版である。
・マクドナルドは、人間の身体が渇望する特定の風味を活用することで、人々を虜にしている。
 同様に、フェイスブックやインスタグラム、ツイッターは、心理学者が「可変的な見返り」と呼ぶものをもたらすことで、我々を虜にする。
・メッセージ、写真、そして「いいね」が現れるのは不定期だ。
 そのため、ドーパミンを活性化させるこの「ご褒美」がいつもらえるのかは決してわからないまま、人はスマホを衝動的にチェックするようになる
(研究によれば、無秩序に見返りを与えることで、行動が迅速に、強く促進されることが判明している)。
・FBで友人の動静をチェックするには数秒しかかからないと人々は思っているが、
 仕事を中断してFBを見ると、本来の仕事に戻るまでに平均25分もかかっている
・FBの「底なしのボウル」
 様々なサービスや画像や動画が画面上に有り、次々にスクロール、クリックしたくなる設計
 一つのサービスを使うと、次のサービスにのめり込むように設計
・友達申請を送れば、受信者のスマホに通知が現れる。通知の色は赤だ。
 これは「引き金」となる色であり、他の色相よりも人間がクリックしたくなる傾向があるのだという。
 名前を見ることで「社会的義務」という生来の感覚が引き出されるため、受信者は応答するためにすべてのことを中断してしまう。
・「結局のところ、フェイスブックのような会社というのは、
  何十億人もの人々が頭を切り落とされた鶏のように走り回り、互いに応答しあい、
  互いに恩義があると感じている姿を背後で観察している会社なのです」
・フェイスブック担当者「ユーザーがそのサイトに費やした時間ではなく体験の質を最大まで高めることに注力しています。
 私たちはその試みが成功しているかどうかを判断するために、常にユーザーを調査しているのです」
・グーグル在籍時、ハリスには、だんだん気になってきたことがあった。
 スマホをブーンと鳴らして新着メールを知らせるといった、一見些細なデザインの選択が、
 人間の生活の何十億もの中断につながるのを考慮していない、ということだ
・彼のチームは何ヵ月もかけて、より「楽しい」電子メール体験を構築すべく、Gmailのアプリの美学の微調整をおこなっていた。
 しかし、ハリスから見ると、それは大局をとらえていなかった。
 電子メールの改良を試みる代わりに、電子メールが人々の生活をどう向上させるかを問うてはどうなのか? 
 それぞれのデザインが我々の生活を悪化させているかどうかを問わないのか?
・「3つの企業に勤める少数のデザイナー(多くは男性で、白人で、サンフランシスコ在住で、25歳〜35歳)の決定が、
  世界中の大勢の人々の興味の方向性に、ものすごく大きな影響を与えている。こんなことは歴史上ありませんでした。
  これを是正することに大きな責任を感じるべきです」
・当時、グーグルのデザイナーだったクリス・メッシーナは、ハリスのスライドの発表によって同社が変わったことはほとんどないと言う。
 「うんうんとうなずく人間がたくさんいただけだよね。その人たちは、うなずくだけで仕事に戻っていくんだ」

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