1カ月で900本の記事を編集し、40本の原稿を書く男の文章作成術
中川淳一郎

■その文章のなかでもっとも言いたいことは何か
文章を書くにあたり、まずやるべきは「『その文章のなかでいちばん言いたいことが何か』をひとつだけ決める」ことだ。一例として、私がこれまで書いた文章のなかから「いちばん言いたいことを伝える」という執筆意図がわかりやすい原稿をひとつ、紹介しよう。2017年6月、日刊ゲンダイに寄稿した舛添要一氏の著書『都知事失格』(小学館)の書評である。

記事が新聞からウェブへ転載される際に付けられたタイトルは「読めば読むほど著者が嫌いになる不思議な良書」だ。この文章で私が特に言いたかった箇所を引用してみる。

〈弁が立つだけに、一瞬同情しかけそうになるものの、突然自慢や他人への攻撃がその後入り、その同情心が失われるという、まさに「自爆テロ回顧録」である。具体的な自慢をするにあたり、まず青島幸男、石原慎太郎、猪瀬直樹がいかに仕事をしなかったかを糾弾し、「東京都知事で北京とソウルに行ったのは18年ぶり」「美術にここまで詳しい政治家はめったにいない」と自らを誇るのだ〉

当時の舛添氏の状況を補足しておくと、公用費をセコく使ったことが批判され、都知事を辞任した後にあたる。同書において舛添氏は、言い訳を徹底的に並べ立てながら、そこに自慢話や武勇伝をちりばめ、さらには自分にとって「敵」と認定した者をたたいている。その様が実に面白いのだが、読めば読むほど舛添氏が嫌いになっていくという妙な側面のある本だった。舛添氏としては「オレ様があのまま知事であり続けたら、どれだけよかったか。お前ら、この本を読んで思い知っておけ!」と言いたかったのだろう。だが、まったく逆の効果をもたらすような内容だったのである。

だから、書評の最後にこう書いた。
〈本文の最後で「衆愚政治のツケは、都民が払う」と書き、小池百合子氏に投票した都民を見下すが、あなたももともとはテレビ芸人だから政治家になれたわけでしょうよ。読めば読むほど舛添氏が嫌いになる不思議な良書である〉

■「3つの具体例」で説得力を高める
この975文字の文章では、記事のタイトルにもなっている「読めば読むほど舛添氏が嫌いになる不思議な良書」という点をもっとも伝えたかった。あとは書き手の欲として「自爆テロ回顧録」というキャッチーな言葉も言いたかった。われながらいいフレーズだと思ったのだ。文章を書く際には、このように自己満足的な一語を入れたりすると筆がノることも多い。「お、なかなか斬新なことが書けたぞ」と、ちょっとした高揚感にも浸れる。実際、記事の担当編集者からも「言い得て妙ですね」とホメてもらえた。

加えて、自分の伝えたいことを補強する具体例も重要だ。最低でも3例は入れたい。

たとえば、先日書いた「マスク着用の奇妙なルール」というテーマの原稿では、私が奇妙に感じている「屋外を歩いているときはマスク着用を強要されているような気分になるのに、飲食店のなかではマスクを外しても許される空気がある」ということをフックにして文章を展開していった。
記事中では続けて「マスクの着脱について、人々のあいだに独自ルールが生まれてきたのではないか」といった話を書いたのだが、具体例として以下の事柄を挙げた。

・片耳からマスクをぶら下げていれば「マスクをする意思あり」と示すことになり、糾弾の対象にはならない
・顎にズラしてつけていても同様
・マスクを外して歩いている場合、向こうからマスクをつけている人が来たら慌ててつけ、つけていない人が来たらつけないまま

かくして人々は、マスクを巡り勝手にさまざまなルールをつくっていく……という様子を書いたわけだが、ここで述べている「奇妙なルール」のような具体例は、読者に「あるあるwww」と思ってもらわなくてはならない。そのためには、文章のなかで矢継ぎ早に複数のエピソードを持ち出して、テンポよく説得していく(納得してもらう)必要がある。

■それっぽい文章が書きたければ「分類」も効果的
具体例を挙げるのと同様の効果を生むのが「分類」だ。この要素を盛り込むと、書き手の伝えたいことがより明快になるだけでなく、文章の仕上がりが「それっぽくなる」という利点がある。要は「きちんと考察したうえで端的にまとめられた文章」感がアップするということだ。先述のマスク記事では「マスクをつけるべき場所・つけなくても大丈夫そうな場所」という分類をした。

【主な「マスクをつけなくちゃいけないプレッシャー」がある場所】
・外を歩いているとき
・公園で遊んでいるとき
・映画館など娯楽施設にいるとき
・電車・バスなど公共交通機関
・スーパー、コンビニ、百貨店、衣料品店を含めた各種小売店
・病院
・会社で会議をするとき
・オフィスビルに入り、エレベーターに乗って、自分のデスクに座るまで
【主な「ここはマスクをしないでもいいよね」な場所】
・飲食店(あくまでも客だけ)
・そこそこ空間的に余裕があるオフィス
・自転車に乗っている人々
こうしたことを書くと「それ、違うだろ!」「他にもあるだろ!」と言いたくなるかもしれないが、これはそもそも私の専門分野ではなく、あくまで実感を書いただけなのでツッコミは甘んじて受ける。

■「箇条書き」を挟むと要点が伝わりやすい

■好きな文体は積極的にまねてみる
また、好きな文体や筆致があるなら、それをまねてみるのもいい。私の場合、作家の椎名誠氏と漫画家の東海林さだお氏の文章にかなり影響を受けている。この2人の著書は何度も、徹底的に読み込んできたので、エッセイやコラムを書くときは言い回しをまねることも多い。

ビジネスに関する書類では、会社員時代の上司・T氏のつくる書類をまねてきた。特徴は、伝えたいことが明快な言い切り調の文体と、以下のようなわかりやすい構成だ。

【1】今回の狙い
【2】導きたい結論
【3】そのための手法の考え方
【4】具体的手法案
【5】得られる成果
【6】想定できるリスク
項目を立てて、そこに箇条書きでアイデアやポイントを書き連ねながら、流れるように企画の趣旨を説明していく。このまとめ方を、私は今でも踏襲してビジネス書類を作成している。

■インタビューと同時進行でテープ起こし
・インタビューしながら入力して、テープ起こしの手間を省く
・時短にはタッチタイピングを習うべき 
・PCを膝の上に置き、相手の目を見ながら打ち続ける

■文章作成を「至福の時間」にしてしまう
・文章を書く時間を楽しめるように工夫する
 →普段食べない高級なお菓子、コーヒーなどを食べながら
 

【まとめ】今回の「俺がもっとも言いたいこと」
・文章を書くときは、その文章全体で「いちばん言いたいこと」をひとつ決めてから書き始めるといい。
・文中に「具体例」を3点以上盛り込み、テーマに関連した「分類」を箇条書きするようにすると、要点が読者に伝わりやすくなる。
・好きな作家の筆致など、好きな文体があれば真似てみよう。
・タッチタイピングの技術を磨こう。
・自分の好きなもの/ことと執筆をセットにしてモチベーションを高めよう。

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